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陸軍将校専用高級灰皿
陸軍本部会議室には、十数人の陸軍将校が集まっていた。
深海棲艦やその他の脅威に対する作戦を練っている…わけではない。
会議を行い戦闘や補給云々の細々した作戦を決めるのは参謀たちの仕事である。
将校の仕事はそれらの計画書や作戦書を流し読みし、承認印を押すだけなのだ。
そもそも今現在、陸にさしたる脅威もない。
海では深海棲艦なる化け物が暴れているが、彼らは陸上には上がらず陸戦兵器も通用しない。
あの化け物に対抗できるのは、海軍が所有している「艦娘」だけである。
そういうわけで暇を持て余した陸軍将校たちは、仕事をしているという体面を保つために作戦会議室に集まっているのである。
雑談に興じる将校たちがふかす煙草の煙で淀んだ空気の中、この場に似つかわしくない「異物」が混じっている。
巨大な会議机、その上座の横に、立膝をついて侍る歳若い少女が一人。
彼女は軍帽と太腿まである長いソックス以外何も身に着けていない。
羞恥に顔を真っ赤に染めているが、その裸体を手で隠そうとしたりはしない。
そう命令されているからだ。
いい歳をした陸軍将校の集まりに、ほぼ全裸の少女…どんな用向きで呼ばれているのか、容易に想像がつく組み合わせではあるが、どうやらその想像は間違いのようだ。
羞恥に震える少女の身体に、手を触れようとする将校はいない。
彼らは口々に下らない言葉を交わしあいながら、時折下卑た視線を少女に送るのみである。
と、そのとき、一人の将校が会議机を人差し指でトントンと叩いた。
何らかの合図だったのであろう、少女はびくりと身体を震わせると、よたよたと立ち上がり、消沈した面持ちで合図を送った将校の足元に跪いた。
将校は口元に嫌らしい笑みを湛えながら、吸っていた煙草を持ちなおし、「ふん」と鼻を鳴らした。
少女は震えながら、華奢な身体に不釣合いな豊満な乳房を、両腕で持ち上げるように将校に差し出した。
「どうぞ…。」
蚊の鳴くような声で少女が言う。
羞恥で赤らんでいた顔はいつの間にか青ざめていた。
将校は怯える少女を見下ろし、尊大な態度で頷くと、手に持った煙草をおもむろに少女の乳房に押し付けた!
「いッぎぃ…っ!」
摂氏600度の炎が皮膚を焼く痛みは、大人でさえ悲鳴を上げずにはいられないものだが、少女は懸命にそれを耐えている。
叫び声を上げれば、さらなる苦痛を強いられるからである。
将校はその様子をにやにやと笑いながら眺め、なおも容赦なく煙草を乳房に捻じ込んでいく。
激痛と、自らの肉が焼ける臭気を間近に感じ、吐き気を催しながら、少女はひたすらに耐えた。
やがて、グリグリと押し付けられていた先端の火が、次第に弱まり消えていくと、少女はそれまで止めていた息を一気に吐き出した。
火を押し当てられた部分は当然のように火傷となり、ジンジンと突き刺すような痛みを伝えてくる。
将校は、あるいは彼女が叫び声を上げることを期待していたのか、つまらなそうに火の消えた煙草を少女の顔めがけて投げつけた。
吸殻は苦痛で血の気の引いた頬にぶつかると、そのまま胸の谷間に落ちた。
人を人とも思わぬような、奴隷以下の粗雑な扱い。
なぜ無垢な少女がこのような仕打ちを受けねばならないのか。
それを知るためには、まず彼女の正体を明らかにする必要があるだろう。
実は彼女こそが前述した海の脅威「深海棲艦」に対する切り札にして、陸軍が初めて独自に開発した「艦娘」あきつ丸なのである。
本来ならば秘密兵器として、また人類の守護者として厚く保護されてしかるべき存在だ。
だがしかし、海軍とは違い陸軍上層部には艦娘に対する根強い不信感があった。
その製造法から運用法まで、一切が秘匿されており将校にさえも説明されない。
陸戦兵器の効かぬ相手に対して海軍が見出した希望。
自我を持つ兵器。
陸軍が誇る兵器郡が一切効果を発揮しない敵も、その対抗策を海軍に先んじられたことも、そしてそれが少女の形をとっていることも、すべてが陸軍将校たちを不快にさせた。
そして彼らは、そういった感情の捌け口として、あろうことかあきつ丸自身を選んだのである。
形は少女でも化け物に対抗する怪物である。
痛みや傷に強く、また上官の命令に対して従順という特性は、皮肉にも将校たちの歪んだ嗜虐心を大いに満足させていた。
…憔悴しきったあきつ丸が息を整えていると、別の席に座った男が机を指先で叩いた。
つい今しがた味わった苦痛が脳内に蘇る。
嫌だ、逃げ出したい…しかし、そう思ってもあきつ丸には上官の命令を拒むことなどできないのだ。
命令に従順であるという性格もあるが、それ以上に、逆らったり遅滞したりすることが、どんな結末をもたらすのか、彼女は身体の芯まで教え込まれているのだから。
「は、はっ…す、すぐに…。」
もたつくあきつ丸に鋭い眼光を飛ばし、いらついた態度をとる将校に、怯えきったあきつ丸は急いで立ち上がる。
「お待たせ、して、も、申し訳ないであります…。ど、どうぞ…っ。」
へら…と、媚びた笑顔。これから自分に対して煙草を押し当てるであろう相手に。
命令と恐怖にがんじがらめに縛られ、心身ともに奴隷と成り果てた哀れな少女がそこにいた。
しかし、当の将校はそんなことには関心を払わない。
いや、見てすらいないのだ。
隣の席の将校との雑談に熱が入り、よそ見をしている。
嗜虐心を満たすでもなく、不満をぶつけるでもなく、ただただ煙草を消すためだけに少女の白い柔肌を「使用」する。
もはやあきつ丸は人間とも艦娘とも、奴隷とすら認識されていない。
ちっぽけな丸いステンレス灰皿より、少しだけ高級な、単なる灰皿。
それがここにいる将校たちがあきつ丸に持つ認識であった。