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Artist's commentary
あの人を待つ
びょうと吹きつける木枯らしがパルスィの頬を冷たく撫でる。地底ゆえに雪こそ降らないものの、地上から吹き込む冷え込んだ空気はパルスィをぶるりと震わせた。欄干に寄り掛かりながらパルスィは偽りの地底の夜空を見上げる。無機質な地底のはずなのに、無数の鉱物が織りなす土の天球儀はきらきらとわずかな光を反射して輝いていた。ほぅとその幻想的な光景にため息をつき、わずかばかりその瞬間に酔いしれる。この場所に来てまだ僅かしか時間が経過していないはずなのに、ずっと早鐘を打ち続ける鼓動のせいか、何時間もの時が経過したように思えた。約束した時間までもう少し。そのことを意識した途端、ふいにドクンと跳ね上がる心臓に不思議と笑みこぼれてしまった。再び、びょうと冷たい風が吹いた。思わず冷たく冷えた手を口元に近付け、僅かに小さな唇を開き温めた。冬の外気に触れた吐息が白い煙となって空中へと拡散する。もう少しで、約束の時間になる。あの日決めた、今日という日に、この欄干の中央で逢うという約束の時間に。その時、ことりと欄干に近づく足音がした。今、幾星霜の時を経て、あの人との出会いの刻が訪れる――