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Artist's commentary
ナースコール
入院してしばらく、この病院の噂を聞いた。とあるナースに合言葉を伝えると、その日の夜に“看護”をしに来てもらえるのだと。処置中は決して目を開けず、声を出さず、寝たふりをしていなければならない。さもなければ、以後その処置を受けられなくなるという。
「――って話を聞いたんですよ。そんなわけあるかって!」
私は半信半疑ながらも、いつも身体を拭いてくれるナースに冗談めかして言った。もしもこんな人に“看護”してもらえたのなら、などという下心を寄せながら。
そのナースは黙りこくった。寡黙な訳では無い。つい先程まで世間話や体調のことをにこやかな面持ちで話してくれていたというのに。
長い沈黙が続き、間も無くナースが私の身体を拭き終える。タオルを片すその横顔は、さながら血の通わないドールのようだった。
「あの、ごめんなさい、別にそういう興味は無くて、ただ……本当にそんなことがあったら、ちょっと怖いなと心配になっただけで」
白々しい言い訳を並べる。たったいま身体を拭いてもらったばかりだというのに、嫌な汗をかき始めた。
ナースは表情を変えることなくこちらへ歩み寄り、そのままベッドの縁にゆっくりと腰掛けた。息を飲む。消毒液の匂いの中に、その人の甘い香りが潜んでいるのを感じた。目と目を合わせ、視線を逸らせない。腕と腕を絡め、離せない。そのまま身体が吸い寄せられると、ただ、真っ白になった。それはナース服の白か、透き通る肌の白か、はたまた狼狽え惚けた私の白か。或いはその全てを見ただろう。毛布越しの股座には手のひらが添えられ、その熱がほんのりと伝わる程度に圧迫される。
口先で互いの呼吸が交じり合う。
「0:00には必ず眠っていてくださいね」
ナースは一言そう囁くと、揺らめくパーテーションの向こうへと消えた。

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