Artist's commentary
[トリート&トリート]鷺沢文香
くちゅ…にちゃ…と、粘り気のある水音がこだまする。
甘い湿度を帯びた吐息が鼻先をくすぐり、とろみのついた口蜜が互いの喉を鳴らした。
柔らかく肉厚な唇がこちらの舌をついばむたび、およそ品性という言葉からかけ離れた吸引音が理性という理性を蟲食んでゆく。
すべらかな薄絹ごしに"獲物"を絡めとる細指が軟体動物じみた執拗さで蠢き、獲物が吐きこぼす露を愛おしそうに掬い取っては撫でつけながら、口元のそれに劣らぬ"咀嚼音"を響かせている。
少し、あとほんの少し彼女の気が変わるだけで、張り詰めた糸はたやすく切れてしまうだろう。
甘苦い揺り籠に貪られながら、静かにその時を待つ。

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