始め、と、強い声が上がった。

環は声のした方を見る。向かい側の線で引かれた一角で、二つの人影が同時に動いた。
百地百合香と鹿島志鶴が戦い始めたところだった。

環は向き直り、改めて自分が戦う相手を見る。
見られた相手は、きっと唇を結んだ表情をほんの少し和らげて見せた。

「準備は出来た？ 環」

藤林空は、環にそう尋ねる。

「は、はいっ」

環は少し驚き、慌てて答えた。

空は環を名で呼んだ。
その声色で、空自身も環のこと知っており、
多少なりとも意識しているのだと、何となく思った。

一方的に憧れ、尊敬していた相手が、
自分のことを見ていてくれていたことが嬉しかった。

「真剣勝負だからね……」

空は環の目を見る。ほんの少し和らげた表情は、もうなかった。

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