Artist's commentary
人形
痛々しい・・・それが私が始めて彼女を見た最初の感想だ。
医療用の筋電義肢から始まり、今や脳そのものの義体すら当たり前になった時代・・・
まるで人体模型のような姿になりながらも戦い続ける屈強な兵士が闊歩するそんな時代・・・
そんな時代のとある日、私はかつては栄えていたのであろう針山のごとく聳え立つ息絶えた
ビル郡の中に居た。
徴兵され訓練期間もそこそこに配属された私は、前線指令所に呼び出され初陣の内容を説明される。
上官「あ~来たか、配属早々に悪いが早速君に任務だ」
こちらが挨拶をする暇もなく上官は話始めた。
上官「確か君は2級医療義体技師の資格持ってたよね?」
私 「あっはい そうでありますが・・・」
確かに私はその資格を持っている、親の勧めで大学時代に取得したものだ。
上官「君の最初の任務はその資格を生かせるものだ。頑張ってきてくれ・・・」
詳細な内容は省くが、要するに前線でまともなメンテナンスもできない義体の兵士達の為に出張サービスしろとのことだ。本来こういった事は小隊付きの資格をもった衛生兵が兼任するのだが、ここの隊は人手が不足しているようで、今回私がその役割を担うこととなったのだ。
翌日、初めての任務内容に戸惑いつつも必要な機材を集め補給部隊の車両に便乗し早速前線へと向かった。
数十分後前線に到着した私は拍子抜けした。前線と言ううからにはそこらじゅうから銃撃や爆発の音がしているのかと思いきや、なんとも静かで廃ビルがだらけのせいもあり、まるでゴーストタウンのようだった。
そんな時である。先に車両を降りた補給部隊の兵士が突然倒れる。
「スナイパーだ!!」
目の前の非日常的な出来事に、腰を抜かした私を近くの兵士が掴み廃ビルへと逃げ込む。
それが私が人生で経験するはじめての戦場だった。
しばらくしてようやく先ほどのショックから立ち直った私は、自分の任務をこなすことにした。
最初の患者は先ほどスナイパーに撃たれた兵士だった。幸いな事に彼は脚を撃たれただけで、
義体化率も高かったため命に別状はなさそうだ。早々に彼に処置を施した後、私は次の患者を診る為に
安全なルートを補給部隊の兵士に教えてもらい、2ブロック離れた場所まで移動する事となった。
廃ビルの入り口や開口部には見えづらいがトラップに繋がるワイヤーが張られている。
ルートを教えてくれた兵士が言うには、このワイヤーの先についている爆発物を見ればそのビルが
味方のものかどうか分かるそうだ。幸い私の今通っているルートは、既に味方がクリアリングしており
トラップには分かりやすい目印がついていた。
あと少しで目的と言うところで不意に”コツン”と後ろから頭に何かかが当たる感触があった。私は驚きすぐに振り向くと、微かではあるが廃ビルに空いた穴の奥に人影を見つけた。その人影が手招きをしているのでおそらく味方であろう。少々疑い身構えながらもその人影に近づいていく。
??「まってたよ遅かったね」
この空間には似つかわしくない透き通った声だった。
そしてその声の主を見て私は驚いた。
私 「あなたが・・患者ですか?」
??「ん?・・・患者?あ~そうか、うんそうだよ患者だよ」
そこに居たのは色白の自分と大して歳もかわらなそうな女性だった。
女 「早速で悪いけど診てくれない?」
私 「あっ はい!!」
彼女の状態は中々酷いものだった。応急処置こそされていたものの右半身が大きく損傷していた。
特に腹部は義肢駆動用のアルミ空気電池のセルが露出していた。
女 「一ヶ月くらいに前に敵に狙撃されてね。14.5mmが右の鎖骨から入って太もも抜けたんだ」
私は耳を疑った。
私 「一ヶ月前!?その状態でどうして後送されなかったんですか?」
いくら人手不足とはいえこんな状態でしかも一人で、とても信じられない話だ。
女 「まぁ仕方がないよ、私は人間じゃないんだから」
私 「!!???」
女 「ゴメンね最初に言わなくて、私ガイノイドなの」
意味が分からない、いったいどういう事なのか・・・ガイノイド!?
混乱している私を見かねたのか彼女が事情を話し始めた。
女 「私はね・・・」
民間人に擬態し敵の内部から攻撃し混乱させる”兵器”・・・それが彼女・・・いや彼女らの役割だった。
女 「私のような成人女性型以外にも、子供型や老人型なんかもあって敵の駐屯地に行商人を装って爆弾を運んだりとか・・・」
こんな話を淡白な表情で淡々と話している彼女を見ているとガイノイドであることを嫌でも感じてしまう・・・
女 「でもね敵が私達への対策をとるようになってからは、こうやって前線の戦力として使われるようになったんだ。」
本来の用途で使えなくなった彼女はこうして前線で一人まともなメンテナンスも受けられず、捨て駒としてここに置かれているのだろう。民間人に擬態するためのコミュニケーション機能も、今となっては何といえない虚しさを私に感じさせる物でしかなかった。
私 「治療・・・始めます」
私は彼女の話に絶えられず誤魔化すように修理・・・治療を始めた。
どれくらいの時間が過ぎたのだろう、私は無言のまま淡々と処置を行い彼女をまともに動ける状態にする事ができた。
女 「ありがとう、これでしばらくは動けるよ」
私 「・・・」
女 「あっそうだ、せっかく治ったんだからとっといたサンドイッチでも食べようかな」
そう言うと彼女はいったいいつものなのか分からない義体用のレーションを徐に手をとり
女 「あなたも食べる?」
そう私に問う。
医療用の筋電義肢から始まり、今や脳そのものの義体すら当たり前になった時代・・・
まるで人体模型のような姿になりながらも戦い続ける屈強な兵士が闊歩するそんな時代・・・
そんな時代に”ガイノイド”である彼女とここ居る”人間”の兵士達にいったいどれだけの差があるのか・・・今の私にはもうわからなくなってしまった。
だから私はその答えを見つける為彼女の傍にいることを決めた。
■スペック
開発/製造:ARISAKA技研
民間人に装い敵の内部から攻撃し混乱させるという用途の特性上、秘匿性に注力した設計となっている。
この兵器の取得する情報は全て超構造体製の頭部に集約される。この頭部にはコネクタの類が一切なく
物理的に破壊し取り出すことも非常に困難で、ある特定方法でしか取り出し、書き込みができない
高レベルのブラックボックス化がなされている。
尚、首から下は現地で普及しいてる義肢を流用し、製造元の特定を極力回避するような配慮がなされている。
当然頭部にも製造元の特定できるような印字はなどはされいてない。
■以上痛くて長い妄想でした、文字数制限ギリギリ
※少し修正しました。