Artist's commentary
背徳の杜
2013/5/26 21:31
私が調べるのは放棄されたリゾート地ではなくその山の周辺にある施設だ。リゾート地にあるのは恐らくオオツラヌヒノミコトの御神体か何かで祭儀は別の場所で行われているだろう。集団の規模がどのくらいかは分からないが交代制で祭儀などの催しを行っているとは考え難く、当然特定の日に大勢の信者達がとある場所に集まることになる。それが放棄されたリゾート地であったなら開けた場所という事もあり複数の目撃者が出るだろう。だがそんな話は噂にも上らない。リゾート地は祭儀を行う場所ではないのだ。「森」の近辺で祭儀を行う幣殿の役割を果たす場所。そこが拉致した人間を集める場所だろう。PCで町の情報に目を通す。思いのほか宿泊施設が多い。だがここじゃない。地元の人間が大勢で利用するのは不自然過ぎる。…ここだ。戦後に建てられ増改築を繰り返している工場施設。従業員約500名の内の大半が地元の人間で構成されているここなら不自然さは無い。私は「地元経済と風習の関係性を調査するため」という名目で工場見学を申請し受理された。…見学の結果入れなかった場所は有機溶剤など危険物を大量に保管している倉庫と工場技術棟だけだった。恐らく技術棟だろう。工場内で有機溶剤を使用していた作業員を何人も見た。他に保管場所らしきものは見当たらなかったし、信者が生命を尊いと思っているなら拉致した人間を長期にわたって有害物質の近くに置くというのは考えられない。私は見学の後工場長と二人で世間話をしている途中工場長の茶に睡眠薬を盛りIDカードを入手した。喫煙所へ向かうと見せかけ技術棟へ潜入する。医療施設内のような白い通路が続く。人気がなくおおよそ祭儀を執り行うような雰囲気がない事に私は焦燥感を募らせた。何枚かの扉を経て中規模のホールのような場所に出た。何だ…これは…。民間で伝承されている無形のものというのは時の流れの中でその在り方を変えていく。古より続く祭儀の内容も例外ではない。様々な年齢の国籍不明の男達が下半身を剥き出しにしてホールの奥にある巨大なスクリーンを食い入るように見つめている。画面には儀式のような光景が映し出されていた。男女で構成された幾何学模様。それが私の第一印象だった…。illust/35894526の続き