Artist's commentary
神の影
2013/5/24 01:03
出典不明の神「オオツラヌヒノミコト」別名「ツラヌキ様」。曽祖父が旧家で発見したという古文書をまとめた資料によると、この神は海外の何らかの神が神仏習合の際に名前を変えたものとある。生命を司りこれを軽んじる者に罰を与えるのがこの神の役割で、戦後に出産を支援した一族の信仰対象だった。古来より土着信仰と特定の一族とは深い繋がりがありこの一族もそれにあたる。彼らは何らかの祭儀を執り行なっていたらしいが、その部分は曽祖父や古文書と共に火事で焼失している。だが他の記述から私はこの神が邪神の類と推察しており非人道的な内容だったと考えている。友人にはこの資料の一部しか伝えていない。古文書が焼失したことにより資料の歴史的な裏付けがなく、学者として躊躇していたのだ。そして友人は樹海で姿を消した。後悔してもし足りない。だが今は彼女を救う方法を考えよう。生命の神の信者ならいたずらに彼女を殺めたりはしないと信じて…。オオツラヌヒノミコトの祠が友人の消えた樹海を挟む山の一方に存在したと資料にはある。バブルが崩壊し開発途中で放棄されたリゾート地が残っている辺りだ。ひょっとして民謡にあった「森」というのは山岳信仰における「山」や神社の意味の「杜」を指しているのではないだろうか。捜索隊は行方不明者を追ってこの放棄されたリゾート地も探したが、確か湧水による劣化で崩落の危険性があったため地下の施設には立ち入れなかったはずだ。私は知り合いの建築事務所に頼んで建物の劣化調査を行った人物を調べてもらった。担当者は例の一族の人間だった。それほど期待はしていたわけではないがこうも見事にきな臭い結果が出るとは…。しかしどうしたものか。役所や警察に私の仮説を聞かせても無意味どころか有害だろう。到底動いてもらえるとは思えないし、例の組織の規模が分からない以上確証を掴むまでは他人に話さない方がいい。友人の記者が失踪したのもいろいろな場所を探った事により組織を警戒させてしまったからかもしれない。だから劣化調査の確認をとってもらった知人もあえてこの地方にゆかりのない県外の建築事務所へ務める人間を選んだ。湯船から出て鏡を手で拭う。そこには何かを決心した表情の女が映っていた。illust/35418554の続き