Artist's commentary
スピッキーとスピキの憂鬱 2Day
#トリッカル #Trickcal #트릭컬
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外界の脅威から身を守り、分厚く、暖かい壁に守られた二匹のスピキの住処であるかぼちゃは、生みの親であり、完璧で、誰もが羨むマイホームでした。しかし、その温もりを享受する寸前で、教主の手が無慈悲にも二匹を引きずり出したのです。
二匹が放り投げられたのは、よどんだ埃の古臭い臭いが充満した、身を切るような寒さが広がる、古びた段ボールの底でした。安心も優し.さのかけらもない、がさがさと波打つ乾燥して潰れた紙の、劣悪で不快な肌触りが、二匹の肌を擦り上げました。
二匹は急な環境の変化に驚き、一刻も早く、あの安心できるかぼちゃのおうちに戻ろうと、必死に壁をよじ登ろうとしていました。しかしまだ生まれたばかりで、力が弱く、カサカサとむなしい音を立てては、粗末な床へと滑り落ちてゆくのでした。
教主は、床材も引いていない段ボールに二匹を入れるのは忍びないと逡巡しましたが、とある懸念事項が頭から離れず、選り好みをしている暇はないと、教団の秘密の菓子倉庫の最奥で、長年忘れ去られていたゼリーをひっつかみ、二匹のスピキにあてがいました。本来なら、生まれてきたかぼちゃをそのまま与え、最初の糧にしてあげるべきでしたが、あいにく今は在庫を切らしていました。
次は、市場で買ってきたかぼちゃを、トロトロのペースト状にして腹いっぱいに与えてあげよう。そう心の中で約束すると、教主は慌ただしく身を翻し、外出用の法衣を羽織るのでした。
急がないと取り返しがつかなくなる。教主はいやな予感を感じていました。(連れていくべきか?)
中身が食い荒らされたかぼちゃの亡骸を抱きしめ、スピッキーは泣いていました。
教主は、泣きじゃくるスピッキーを置いていくか、一瞬だけ天秤にかけました。恐らく、彼女の農園のかぼちゃのいくつかは、確実に食い荒らされ、苗床にされているはずです。
彼女を連れていって待つのは、間違いなく救いのない地獄でしょう。しかし、かぼちゃの危機を隠したまま、手遅れになった後で事実を知らされたらどうなるか。彼女は必ず後悔に苛まれるでしょう。
『何かできたはずだ。』……そんな悔いをスピッキーに背負ってほしくなかったのです。明るくて、誰にでも元気に接するスピッキーから、自分だけ恨まれて、冷たく対応されたらたまらないと、保身に走ったわけではないでしょう。多分。
教主は、彼女にかぼちゃ畑についてくるか聞くことにしました。
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教主について行くことに決めたスピッキーは、教主に抱えられ、幽霊沼のカボチャ畑へ向かって走っていました。彼女の歩調に合わせるなど、今の教主には到底考えられない選択だったからです。彼は問答無用で、スピッキーの小さい体を強引に抱き上げると、重量を感じさせない健脚でエルフィンランドを駆け抜けたのでした。
そんな彼の姿勢に、スピッキーは好意をいだきながらも、途方もない不安と恐怖に押しつぶされそうになり、抱えていたかぼちゃの亡骸を強く抱きしめるのでした。
スピッキーには、今まで教主やエルフがかつて持っていた死の恐怖が理解できませんでした。エーリアスに住むものは、致命的なダメージを受けると、週末農場へと送られて幸せに過ごすというのが常識であり、疑いようのない世界の摂理だったからです。
無残に中身を食い荒らされ、虚ろな空洞と化した友達のかぼちゃの残骸。それを凝視していることしかできないスピッキーの瞳に、不意に目の前の自分を抱える教主の姿が重なりました。
彼は外から来た人間です。エーリアスの果てしない時間軸において、彼と共に過ごせる数十年など、ほんの一瞬でしかありません。
いつかこのカボチャと同じように、彼の中からも命が失われ、虫や菌に内側から食い尽くされてしまう日が来る。スピッキーは逃れようのない死の恐怖に、成す術のない無力感に、教主の暖かい胸の内で小さく丸まり、震えるしかできませんでした。気が付いた時には、空の色彩が無くなり、辺りは薄い霧に覆われた、いつもの幽霊沼のほとりまで来ていました。いつの間に、これほどの距離を移動したのでしょうか。教主の腕に抱えられた視界は、いつもよりずっと高く、目まぐるしく景色が後ろへ飛んでいきました。これ以上ないほどの速度で農園に向かっているはずなのに、焦燥の気持ちがその速度を許しませんでした。一秒一秒が永遠のように長く感じられます。このままでは間に合わない。そんな根拠のない恐怖で、彼女は無意識に拳を固く握りしめるのでした。
教主が足を止めるのと同時に、スピッキーの希望は音を立てて崩れ去りました。
到着した農園に、スピッキーの期待していた友達の声はありませんでした。
そこには、まるで絵本から飛び出したかのような「かぼちゃのおうち」がありました。しかしスピッキーにとっては、友の死体を弄んで作られた悪趣味極まりないドールハウスにしか見えませんでした。
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それは、遥か高みにある「精霊の山」から始まる奇跡の連鎖でした。清冽な雪解け水は、「妖精王国」を通り抜ける過程で、その姿を変えます。妖精の暮らしが生み出した生活排水、そして大地を磨き上げ得られた豊かなミネラルが溶け合い、いつしか水は、農業に必須ともいえる三大栄養素を十二分に含んだ「命のスープ」へと昇華していたのです。
そして、そんなあらゆる農作物を育む命の象徴はいずれ「幽霊沼」へとたどり着くのです。彼女らの文明は、あまりにも鮮烈な勝利の連続から始まりました。
産声を上げた瞬間、目の前には立派に育った大量のほばきがありました。本来、ほばきという作物は、あまりに貪欲です。大地の栄養を吸い尽くし、際限なく肥料を求め、育てる者に土にまみれる過酷な労働を強いる。それは本来、汗と涙の代償としてのみ与えられる「豊かさの証」でした。
しかし、この地で産み落とされたスピキ達にとって、自分達はその「労働の呪縛」から解き放たれた種族であることをその瞬間悟ったのです。
彼女たちにとって、そこは苦労せずとも、ほばきの生えてくることが.約束された楽園なのです。
かつて農業という営みに必要だったはずの苦労や工夫は、ここでは全くの無用。ただそこで、ほばきに頬ずりして過ごしていれば、世界が勝手にほばきを育て上げ、子孫を、住処を、そしてほばきを作り上げてくれる。その一方的なまでの幸福を、彼女たちは至極当然の権利として受け入れるのだと、希望に胸を膨らませるのでした。産声を上げたばかりの新しい文明、その輝かしい未来に突如として暗雲が立ち込めました。
ほばきのおうちの前で、お隣さんと雑談に花を咲かせていた、その瞬間、彼女らの小さな視界を、空から落ちてきた巨大な影が塗りつぶしました。
彼女らが見上げた先にいたのは、生物の域を逸脱した存在でした。点を貫くほどに細長く、不吉なまでに赤黒い肉の化け物。
指が五本ある感情の読み取れない未知の怪物はただそこに佇み、彼女らのほばきを見下ろしていた。
ーーひゅん。
状況を理解できず、首を傾けていた瞬間、何かが音もなく伸びてきました。
玄関先で楽しく雑談に花を咲かせていたお隣さんは、気がつくと一瞬で視界から消えてしまいました。逃げ出す暇もなく、あの怪物に空高く連れ去られてしまったのです。
パニックが伝播するよりも早く、赤黒い影は淡々とスピキ達を回収していきました。
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命からがらほばきのおうちに隠れたスピキ
他のスピキにぶつかり、ひっくり返って身動きの取れなくなったスピキ
沼地に飛び込んで逃れようとしたものの、溺れて身動きが取れず叫んでいるスピキ
スピキたちはあらゆる抵抗も功をなさず、捕まっていきました。
彼女らの渾身のかみつきも、頑丈なほばきのおうちも、あの化け物の前では、紙切れ一枚ほどの防御力も持ちません。
残されたスピキたちは、ただほばきのおうちの奥で、恐怖で震え、見つからないようにと身を縮こまらせ、どうしてと理不尽に泣き叫ぶことしかできませんでした。
ついさっきまで世界はスピキたちを中心に動いていると信じていた万能感は、目の前の化け物に跡形もなく粉砕されたのでした。
さっきまであれほど賑やかだったほばきの町が急速に静まり返っていく。
家の影、地面のくぼみ、水辺から一人また一人と、愛する同族の気配が消えていく。声が遠ざかるたび、当たりを支配するのは不気味なほどの冷酷な静寂だった。
あるスピキは自慢のほばきのおうちの奥深く、ベッドの中で身を縮めて泣いていました。
しかし、その足掻きが実ることはありませんでした。
窓から入る日の光が遮られ、感情にの読み取れない巨大な赤黒い化け物がそびえ立っていました。
逃げ場など、最初からどこにもなかったのです。

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