Artist's commentary
泣くほど私のこと、独り占めしたかったんだね
窓を叩きつける激しい雨音が、薄暗い校舎に重く響いている。
『詞音ちゃん、見て。SNSに写真載せたら、知らない人たちからすごいいっぱい「いいね」が来たの』
送信ボタンをタップし、わたしは誰にも見えないように小さく唇を歪めた。
詞音ちゃんは完璧な「親友」だ。でも時折、わたしを見るその翡翠の瞳に、ひどく熱を持った感情が揺れるのを知っていた。だから、試したかった。この無防備な写真と他者からの称賛という劇薬が、彼女の奥底の理性をどう壊すのか。
(詞音ちゃん、どんな顔をしてくれるかな)
――――――
図書室の静寂を破るように、スマートフォンが短く震えた。
画面に浮かんだ湊音からの呑気なメッセージと、一枚の写真。それを見た瞬間、詞音は文字通り息を呑み、思考を硬直させた。
画面の中の湊音は、少し照れくさそうにはにかんでいて、そのあどけなさと無自覚な色香が絶妙に混ざり合っていた。詞音がいつも特等席で独り占めしている、あの愛らしくて、無防備で、少しだけ自分のことを雑に扱う彼女の表情。
――それが今、無数の「誰か」の目に晒されている。
(私たちは、ただの友達なのに……どうしてこんなに、苦しいの?)
腹の底からどろどろと溢れ出すのは、親友という枠組みを壊してしまうほどの、醜く狂おしい独占欲だった。嵐のように吹き荒れる己の感情に、詞音自身が一番怯え、混乱していた。
気づけば、詞音は渡り廊下で湊音の腕を乱暴に掴み、誰もいない薄暗い保健室へと引きずり込んでいた。
「あっ……ちょっと、詞音ちゃん……!」
鍵が乱暴に閉められる鈍い音。シーツが擦れ、湊音は強引にベッドへと押し倒された。
文句を言おうと見上げた湊音の言葉は、すぐさま宙に消えた。自分に覆い被さる詞音の綺麗な翡翠の瞳から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちていたからだ。
「なんで……っ、なんで他の人に見せるの……?」
親友の境界線を越える恐怖と、抑えきれない情念。相反する感情の波に呑まれ、戸惑いと独占欲に引き裂かれながらしゃくり上げる詞音の顔は、ぐちゃぐちゃに濡れてひどく痛ましく、それでいて底恐ろしいほどに美しかった。
それを受けた湊音は、ベッドに沈み込んだまま、ゆっくりと満足げな弧を唇に描いた。

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