Artist's commentary
リモコンデビューバニーさん(3代目)
錦糸町店:リモコンデビュー・バニーさん(栗本このみ・21)の場合
グラスが触れ合う硬質な音。
団体客の賑やかな笑い声。
紫煙の向こうから、無数の視線が粘着質に絡みつく。
錦糸町の雑居ビルにある高級ガールズバー、「Tokyo裏バニー倶楽部」のホールの中心。遮蔽物のない空間。
ほぼ全裸の身体にウサ耳をつけて立っているわたしは今、全方位から「消費」されていた。
手には、なみなみと注がれた高級赤ワインの乗ったトレイ。
そして、わたしの最も秘匿されるべき場所には、鋭角なハイレグによって硬質な「異物」が無理やり固定されている。
布面積が少なすぎる。歩くたびに生地が肉に深く食い込み、逃げ場を失ったその「異物」が、冷たく、容赦なく粘膜を押し広げて存在を主張する。
何より恐ろしいのは、そのスイッチを「誰」が握っているのか知らされていないことだ。
目の前で談笑するサラリーマンか。
奥のボックス席の若者たちか。
それとも、このホールにいる客全員が共犯者なのか。
四方八方からの視線が、いつ発射ボタンを押そうかと狙う照準レーザーのように肌を焼く。
わたしは特定の誰かではなく、空間に充満する「悪意ある好奇心」そのものに向けて、息も絶え絶えに唇を動かした。
「あの……わたし、これ……初めて、なので……」
視線を床に落とし、生まれたての小鹿のように震える足を踏み出す。
「なるべく、優しく……お願いします」
こぼしたら、終わりだ。
あの罰ゲームだけは回避しなければならない。あれは…社会的死は免れないのだから。
とにかく、お願い。許して。
引きつった愛想笑いを空中に張り付ける。
「こぼすと……その、罰ゲームされちゃうので……」
その瞬間だった。
――カチッ。
どこかで乾いた音が鳴り、わたしの股下の世界が裏返った。
「――んぅっ……!?」
想定していた「衝撃」などではなかった。
もっとおぞましいほどに甘く、暴力的な熱波。
一番弱いモードのはずだ。なのに、極限まで張り詰めたハイレグのテンションが仇となった。逃げ場なく密着させられた一点――わたしが一番弱い急所を、無機質な振動が正確に抉ったのだ。
脊髄を駆け上がる痺れ。
脳の芯が白く飛び、視界が揺らぐ。
熱い。どうしよう……熱い!
「あっ、ふ……っ、くぅ……ッ」
砕けそうになる膝を、高いヒールで無理やり支える。内股が勝手に擦れ合い、その摩擦がさらに異物を肉へめり込ませる。
いけない。仕事中だ。わたしはバニーだ。ワインを運ばなければ。
理性で命じても、身体は正直に敗北していく。乳首は痛いほどに尖り、呼吸は浅く、体温の暴走を止められない。
トレイ上のワイン水面が、身体の震えを拾って不穏なリズムで波打ち始めた。
必死だ。わたしは必死に、尊厳を犯す快楽の波に抗っている。
けれど、見えない指先は残酷だった。
あたかもわたしの抵抗を嘲笑うかのように、誰かがもう一度、ダイヤルを回した。
ブゥンッ!
「――っ、あ!」
限界を超えた電圧に、膝のロックが外れた。
とっさにトレイを庇う。
セーフ……!
……そう思った、次の瞬間。
ポタ、ポタ。
激しく波打ったワインがグラスの縁を越え、真紅の雫が床のカーペットに黒い染みを描いた。
「あ」
わたしの口から、間の抜けた絶望が漏れる。
一瞬の静寂。
ホールの喧騒が、嘘のように凍り付いた。
目の前にいた女性客が、床の染みを見つめ、それからゆっくりと視線を上げ、わたしを射抜いた。
その目は……これから始まる「ショー」を、心待ちにする目だった。

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