Artist's commentary
リモコン初挑戦バニーさん(佐伯マナ・21)の場合
錦糸町店:リモコンバニーさん(佐伯マナ・21)の場合
ついに、この日が来てしまった。
更衣室の鏡に映る、『裏バニー』姿のわたし。
隠す布の一切ないトップレスの双丘と、股間に鋭く食い込むハイレグTバックが、無機質な照明を弾いて濡れたように艶めいている。 カフスと蝶ネクタイだけを身につけたその姿は、全裸よりも遥かに無防備に見える。
だがさらに、今日は一点だけ、決定的に違う部分がある。 右の太腿に、無骨な電源ユニットがテープで雑に固定されているのだ。
そこから伸びる一本の黒いコードが、鋭角に食い込んだハイレグの布地の下へ潜り込み、わたしの身体の奥へと繋がっている。
これが錦糸町店の「洗礼」。
フロアの真ん中で突然立ち止まり、顔を真っ赤にして小刻みに震え出す先輩バニーさんを何度か見ていた。
その姿を横目に、「わー、今日はあのバニーさんか……大変そう」なんて他人事のように思っていた時期がわたしにもあったけど…… それがついに、回ってきてしまった。
わたしの身に、ついに。
「……よし」
鏡の中の自分と目を合わせ、小さく息を吐く。
シフトのたびにこの”制服”に袖を通してきたけれど──いや、自分で言ってて違和感しかない。袖なんてないし、そもそも…”服”とは?──この2ヶ月で、ようやく「胸や股間を手で隠してしゃがみ込みたい衝動」を止められるようになったと思っていた。 けど今日は、さらにバイブまで仕込まれている。
わたしの羞恥ゲージは満タンを100として残り2だ。
それでも、行くしかない。
わたしはプロの裏バニーだ。
たとえ体内に異物を仕込まれていようと、業務は完璧に遂行しなければならない。
何より、ペナルティだけは絶対に回避する必要がある。
もしスイッチが入った状態でドリンクをこぼせば、罰として『バイブ追加挿入』か、あるいは『お客様の前で渾身の一発芸を披露』が課せられる。
この格好で、真顔で芸をする。
それだけは、死んでも避けたい。
社会的な死だ。
「失礼いたします」
ホールへ出ると、独特の緊張感が肌を刺した。
わたしの身体の主導権を握るリモコンは、店内のどこかにある。
誰が持っているかも、いつ押されるかも知らされていない。
それでも背筋を伸ばし、ヒールを鳴らして歩く。
わたしは平気。
わたしはできる。
そう自分に言い聞かせて、オーダーの入ったシャンパンボトルとグラスをトレーに乗せた。
目指すは奥のボックス席。
3名の男性グループが座っている。
わたしが近づくと、彼らの会話がピタリと止まり、視線が一斉にわたしの太腿へと注がれた。
「お、マジか」
「あれが?」
「操作できるやつ?」
この店の”名物”として広く認知されているサービス。
これを目当ての客も多い。
テーマパークのレアキャラクターのように、見れてラッキーみたいな空気が、逆にわたしの羞恥心を煽る。
(そんなに期待されても……)
平静を装い、慎重に膝を折ってテーブルに近づく。
重心を落とし、トレーを差し出す。
完璧な所作だ。
これならいける。
そう確信した、次の瞬間だった。
『ブブブブブッッ!!!!』
「ッ、ぐぅ……ッ!?」
脳天まで突き抜けるような衝撃が、下腹部で炸裂した。
甘かった。
覚悟なんてものが、これほど脆いとは。
予備動作なしの最大出力。
ごつごつした異物が内側から粘膜を激しく擦り上げ、わたしの意思とは無関係に、子宮口を刺激する。
膝が、ガクンと笑った。
「あ、ぅ……っ、んッ!」
トレーの上のグラスが、ガチャガチャとけたたましい音を立てて触れ合う。
こぼれる。
だめ、こぼしたら一発芸。
頭ではわかっているのに、太腿の内側に力が入らない。
ヒールの爪先立ちで必死に耐えようとすればするほど、バイブの位置が深くなり、より鋭敏な部分を的確に抉ってくる。
目の前のお客様たちが、「おおっ」「やっば」と小さく声を上げ、固唾を呑んで見守っているのがわかる。
トップレスの胸が激しく波打ち、汗ばんだ肌が赤く染まっていく。
直立不動のまま小刻みに震え、半開きの口から熱い吐息を漏らすだけの女。
「……っ、お、おまたせ……いたしま、ひっ♡」
語尾が跳ねた。
もう限界だ。
腰が砕け、トレーが傾く。
あぁ、終わった。
わたしはこれから、この格好で芸をやらされるんだ。
絶望と共に目を閉じたその時、ふっと振動が消えた。
奇跡的に、一滴もこぼれていなかった。
ガシャン、とトレーをテーブルに置き、わたしは肩で息をして崩れ落ちる。
「フーッ、…フーッ…」
お客様たちの「ナイスファイト」と言わんばかりの拍手を背中で聞きながら、わたしは逃げるようにその場を立ち去った。
なんとか、生き延びた。
乱れた呼吸を整えようと、ふとバーカウンターの方を振り返る。
カウンターの奥、薄暗い照明の中に店長が立っていた。
わたしと目が合うと、彼女は楽しそうににっこりと微笑み、その手の中で弄んでいた小さな白いリモコンを、わたしに見せつけるように軽く振ってみせた。
***
“Ah… i-is that… everything for your order…?
Haa… th-then… please, enjoy your ti—… ah…
N-no… nn… it’s nothing…
P-please… haa… enjoy your night…”

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