Artist's commentary
そして、用意されたのは物置にすら使われなくなった、天井裏の狭い小部屋。
だけどそこは、常に賑やかなお屋敷の喧騒が届かない、数少ない二人だけになれる部屋でした。
「ただで養われるなんて思わないことね」と言い放ち、お嬢様は衣玖さんをメイドに仕立てました。
この日から、竜宮の使いは紅魔館のメイドとして生きていくことになりました。
その新人メイドに、お嬢様の恋人がやってきて言いました
「レミィったら、口ではああ言ってるけど『家族が増えるまでにきちんとした部屋を都合してあげる』
って思ってるから。安心してくださいね。あと、私が言ったのは内緒で」
衣玖さんは、お嬢様のことが少しわかった気がしました。
館に住み始めると同時に館中のメイドたちからお祝いのお手紙や、お花や、木の実が届きました。
それが妖精たちの精一杯で、まごころからの祝福。
拙い字でかかれた手紙や野花は、衣玖さん達の一生の宝物になりました。
不便な場所の部屋への家具の搬入は美鈴さんとゴブリンさん達がすべてやってくれました。
「あの・・・。ありがとうございます」
衣玖さんがそう言うと「うん? それより結婚おめでとう!」と快活な笑顔が帰ってきました。
あの咲夜さんが、どうしてこの娘を選んだのか、衣玖さんはわかった気がしました。
「おめでとうゴブ」「おめでたいゴブ」「けっこんてなにゴブ」
と、いつも勝手に楽しそうなゴブリンさんたちの間で『結婚ごっこ』が流行るのは、また別のお話。