Artist's commentary
ちゆりの青い目に岡崎夢美
第8回例大祭 ひ-01a「BOXELL」で頒布予定の「恋々幻想郷」(http://boxell.jp/thcd/)で、文と妹紅のBGM、そして岡崎教授のBGMと立ち絵&カットインを描かせていただきました!
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空には雲が立ち込めて、キャンパス内の建物は、一様に色彩を失っていた。「どうしたんだ、ご主人様」振りかえると、両手にいちごのパックを抱えたちゆりが、生協の店舗から出てくるところだった。「ううん、天気予報も当たらないなぁ、と思って。晴れるって言っていたのに」私の言葉を聞いたちゆりは、ふうん、と答えて、顔を上げて空を見た。
そのときである。突如、地面が紅色に染まった。「!?」しかも、なんだか蠢いている。よく見てみると、それはストロベリークライシスであった。無数のなめらかないちごが、我先にと、研究棟の入り口に向かって押し寄せている。そのうちの一つが、脚を伝って這い上がってきた。星のような形をしていた。「星状体ね」「そうだな」そう答えたちゆりの頭にも、複数のいちごが乗っていた。いずれも、そらまめに似た質感を持っていた。そらまめの一つが、ちゆりの髪を伝い落ちた。滑っていった道筋が、赤い尾を引き、ちゆりの髪を塗らした。そしてそれは、ちゆりの右頬へと流れ、その柔らかく白い肌へと到達した。白い雪原のようであった。白い雪原を、赤いそらまめが、血に濡れた両足で踏み荒らしていくようであった。「ちょっと」突然声をかけられて、ちゆりはこちらに目線をよこした。目が合う。私はちゆりに近寄った。ちゆりは、私よりもかなり背が低い。傍に立てば、どうしても彼女が見上げる形になる。ちゆりの青い目に、私の顔が映る。それはストロベリークライシスであった。ちゆりの雪原を踏み荒らす赤いそらまめを、右手で弾き飛ばした。吹き飛んだそれは、研究棟の入り口ドアに衝突し、そのガラスを突き破った。一面のいちごの海が沸き立った。ちゆりの青い目に、私の顔が映っている。キャンパスの全てはいちご色だった。無数のいちごたちが、空へと舞い上がって行く。ちゆりの青い目に、私の顔が映っている。研究棟が、破裂するいちごたちの衝撃によって、瓦解して舞い上がって行く。ちゆりの青い目に、私の顔が映っている。それはSailor of Timeであった。ちゆりの左手に抱えられたパックのいちごは、瑞々しくて、なかなか美味だった。