Artist's commentary
落花
そう言えば今日クラスで何人かの生徒がゲームをやっていたな。
リノリウムの床に落ちた赤黒い雫を眺めながら思い出す。
単なるカードゲームだけど罰ゲームがあるらしく意外と白熱していたっけ。
罰ゲームの内容は…。
そう、あの女の子に告白するとか言っていた。
クラスの隅でいつも本を読んでいる女の子。
上手くクラスに馴染めないでいるあの子。
思いの外運動が得意で走り高跳びはクラスで一番のあの子。
本を抱えて教室の扉を開けられず途方に暮れいたあの子。
見兼ねて扉を開けてあげるととびっきりの笑顔を見せたあの子。
そしてロッカーの扉をノックし続けるあの子。
ゲームに負けたであろう男が鼻息を荒げる。
つきたての餅を平手で叩くような音。
僅かな水音。
苦悶の交じる艶めかしい吐息。
あの子は行為に没頭しているのか僕が居ることに気付きもしない。
きっと彼女は僕が思っているよりずっと人の温もりに飢えていたのだろう。
告白されたその日のうちに体を許してしまう程に…。
歪んだ視界の中、男が彼女と繋がったまま身震いする。
僕はその光景を目の当たりにしても未だ声一つ上げられないでいた。