Artist's commentary
ひとひらの雪
2015/2/1 21:00
喫茶店の窓越しに外の景色を眺める。
昨日から振り続いている雪でいたる所に純白の帽子を被ったオブジェが生まれていた。
何杯目かのコーヒーに口を付ける。
正面に座る友人はかれこれ1時間むっつりと黙ったままだ。
ここ1週間程病気で学校を休んでいたかと思えば急に「何となく会いたい」なんてメールを寄越す。
中学の頃から一緒に馬鹿ばかりしていた相手だけに少々面食らったというか、
一体どういうつもりで僕を呼び出したのか物凄く気になる。
と言うのも、実は最近僕は彼女のことが気になっている。
一人の女の子として意識し始めていたからだ。
ひょっとしたら今日、僕達の関係は友人から恋人へ変わるかもしれない。
そんな自意識過剰な考えが頭を掠めてからというもの妙に落ち着かない。
唐突に一滴の涙が彼女の頬を伝う。
雫はまるでひとひらの雪のように宙へ舞った。
その様子を目の当たりにしてさっきまでの浮ついた気持ちが消し飛んだ。
「…何かあったの?」
ここに来てから何度も繰り返している質問。
だけどこれまでとは違い僕はひどく動揺していた。
男勝りで喧嘩っ早いところのある彼女が泣いている。
「あのさ…」
ようやく彼女が口を開く。
ずっと外の様子を眺めていただけにしてはやけに疲れた表情をしている。
理由もなく胸騒ぎがする。
「アンタは知りたい…?」
もちろんその涙の理由を知りたい。
そして可能なら何とかしてあげたい。
その場の雰囲気から僕は襟を正して頷いた。
彼女が身を乗り出して僕の目をじっと見る。
何か変だ。
彼女の瞳には自虐的な黒い炎が揺らめいていた。
怖くなって目を逸らそうとした瞬間、僕の前へケータイが突き出される。
ひとひらの雪が舞い降りる。
僕のずっとずっと奥へ。
仄かに温かい心の熱を奪いにやって来た。
「だったら教えたげる。
あたしの初体験がどんなだったか…」
その画面には、芯まで凍てつく程の悍ましい内容が映し出されていた…。