Artist's commentary
いつか彼女を知る日が来るのだろうか
「••••••メリークリスマス」
中途半端に握られた手を、小さく揺らしながら彼女は言う。
俺は、前にも似た光景を見たことがあるのを思い出していた。
文化祭実行委員会の激務に疲弊した彼女の家を訪ねた次の日。
確認するまでも無い確認事項を口にして、彼女は小さく手を振っていた。
しかしそれは似た状況であっただけで、全く別なのだということは理解している。
あの時、彼女は俺に親近感に似た共感を抱いていたのだと思う。
それは俺が彼女に押し付けた幻想と同じものだ。
世界に望んで、そして決して手に入らないと絶望して、諦め様としたもの。
それでも諦められずその一寸の光のような希望を彼女に勝手に見出し押し付けたもの。
彼女は勘違いしていた。
俺が押し付けたのと同じように、彼女は俺に自分の幻想を投影していただけだ。
その実俺は、文化祭実行委員会の激務で疲弊した彼女に酷く残酷な言葉を放ったのだ。
それは彼女に見てしまった希望の権化。彼女の為でもなく、彼女を助けようなどと考えたわけではない。
自分の中にある合理性をもつ世界観、今の自分を肯定する為だけに作られた自意識の整合性をただただ彼女に押し付けたのだ。
それでも結果としてそれは彼女の助けとなり、彼女は俺を勘違いした。
俺の行動は自分の中の整合性を貫いたものだ。
だから、意図や意味や意義を自分の中で明確に出来ている。
だから、あの時、彼女の抱いた想いが間違っていると断言出来た。
そしてだからこそ、今、目の前で手を振る彼女の心情を推し量ることが出来なかった。
修学旅行、生徒会選挙、クリスマスイベントの運営。
どれをとっても俺にはかつて俺が持っていた合理性も整合性の欠片もなくしていたからだ。
自分を偽り、自分を誤魔化し、合理化できない、整合性の全く取れない行動を是とも非ともしない中途半端な状態で半ば受け入れていた。
今の状況はそんな明確な意図も意味も意義も持たない行動の延長線上にある。
理路整然とした事なら解答は理屈から見出せる。
だが整合性の欠片もない行動から生じたこの状況は到底理解が可能なもに感じられない。
俺も彼女も今まで互いに踏み込むことは無かった。
会話や行動を自分の知識に照らし合わせ近似解を導き、理解した気でいただけだ。
だから勘違いを起こし、理解にも至らない。
今のお互いのこの距離がそれを暗喩しているように思える。
踏み込むには少し遠く、しかしお互いの姿を認識することが出来る程度には離れていない。
その距離が理解を阻んでいるかのように。
だとすれば、もし近づくことが出来たのならば、踏み込むことが出来たのならば行動の意図や意味や意義が判らなくても相手を理解することができるのかもしれない。
理解をしたから踏み込むのではなく、踏み込み手を取り合うことで理解が出来る。
そんな関係があるのかもしれない。
今の俺にはまだ、そこまで踏み込みそして手を取り合うことを想像すら出来ないでいる。
それは自分が変えられてしまうのを恐れているのか。
それは彼女を傷つけてしまうことを恐れているのか。
今までの自分の理解を超えているから、その距離を測りかねる。
俺は未だ、それを測るための尺を持ち合わせていないのだ。
それでも―――踏み込むことが出来なくても、今のこの距離でなら彼女と同じ様に手を振ること位なら出来そうに思えた。
「••••••あ、ああ。メリークリスマス」
手を振りながら出た言葉は、不器用に不恰好に寒空に小さく響く。
だけど空気を伝わる微かな熱は確かに彼女に届いてくれたような気がした。
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裏タイトル
【クリスマス】6.5巻(実質9.5?)のあれ【相変わらずの遅刻勢】
取り合えずキャプション疲れました。
そっちかよって突込まれてしまいそうですが、やりたい事は最大限やりたいでしょう。
出来ているかは別として。
まぁ、その結果がこの遅刻なんですけどね……。
いや、絵も仕上がってなかったですが。
しかし、恥ずかしいくらい戯言でチラ裏で思い付きですね。汗
せめて、もっと判りやすく読みやすい文章で、とか本編との整合性を確認してから、とか思いますが、それをやっているとクリスマスどころか冬も終わってしまいそうなので投稿します。
一応シチュエーションとしては、6.5巻のボーナストラックで9巻の後日談部分(判りにくい)の話から抜粋しました。
言わずもがな、雪乃が非常に可愛いらしい場面です。まぁ、↑のはそれを微塵も感じさせないというミスマッチなんですが。書き終わって、あれ、これ違くね。とか思ったけどそれは後の祭り。今更書き直す気力も体力も無いわけですよ。
あの話は挿絵1枚でしかもバストアップのみなので、服装などは適当に妄想を膨らませて描きました。
案外こうゆうの楽しい。ググる時間増えるから余計に遅筆になるのがあれですが。
絵について
前回厚塗り(もどき)をやってその大変さが身に染みたので、少しでも簡素化できないかと、今回は厚塗りの中でもすこし特殊なグレー法を試してみました。
結果としては……なんか前回以上に時間が掛かっている気がします。汗
いや、厚塗り自体の作業はすごく楽になるし自分好みの塗りになった気はしているんですが。
多分、元来の重箱をつつく様な性格が厚塗りとシナジー効果で作業時間が膨大になってしまっているんじゃないかと。
正直心が折れかかりましたね。ってか何度も折れた様な気もします。
まぁ手法を調べながら手探りでってのもあるかもしれませんが。
しかし、この描き方続けてると、アナログ絵や線画、ペン入れに全く経験値が入らないですね。多分。
個人的には最終的にはイラストだけでなく漫画も描いてみたいと思っているので(ってか使用ソフトがクリスタEXですし)、これにはなかなかに危機感を持っています。
厚塗りは形を整えることに関してやりやすさを感じますが、それに半比例して時間が掛かるのと、ペン入れ系経験値が入らないのがネックだなぁ。と思ってます。
……といいつつ取り合えず暫くは厚塗りをそこまで仕上げにこだわらずに投稿して、まずは数を稼ごうかな。と考えてます。
何か見えてくるものがあると期待しつつ。