Artist's commentary
狂気の宴
2014/12/6 08:38
私の遊興施設は他の施設にはないサービスが有る。
事細かに調査された出場者のプロフィールを事前に観覧客へ提供するサービスだ。
ここに訪れる客達はいわゆる上級者だ。
法的に認められた娯楽では満足出来ず、裏社会の非合法な娯楽を巡り続けている者達だ。
単なる命の奪い合い程度では悦ばない。
一風変わったスパイスが必要だ。
そこで独自のサービスが活きてくるという訳だ。
今宵の演目に出場する者達もまたいずれも業の深い者達。
ステージの上で相手に一方的に殴られている男などは殺人鬼だ。
有名企業に勤めるエリートの彼は三ヶ月に一度ハンティングをしていた。
反社会組織の人間を使って後々面倒にならない者を拉致させ、出入口以外が封鎖されている別荘の奥へと連れて来させると、
釘を打ち付けたバットのようなものを引きずりながら入り組んだ別荘の中、獲物を探し始める。
唯一外へと通じる扉の鍵は彼が持っているため、獲物になった者は彼に出会うまで延々と別荘を彷徨うことになる。
そして捕まったが最後、若い女なら拷問のような激しい暴行、
それ以外なら即鈍器で人相がわからなくなってしまうくらい殴打される。
そんな素敵な趣味を持った彼を我々がいつまでも放って置くはずがない。
彼が他人に獲物を連れて来させた手段と同じような手段で我々が彼をこの施設にお招きした。
客が歓声を上げる。
殺人鬼が反撃に転じたのだ。
彼は基本的に凶器を持って戦うスタイルだったため、無手での戦いには慣れておらず相手の素早い拳撃に反応できないでいたが、
急所を守りながら防御に徹するあたりは天性の戦士と言ったところだろう、隙を見計らって相手にタックルをお見舞いした。
対戦相手は彼に組み伏せられながらも激しく抵抗している。
彼女は警官だ。
しかも志願してこの場にいる。
幼い頃から警官である父の背中を見て育った彼女は父に似て優秀な刑事になった。
幾つかの凶悪事件を解決し勲章まで貰った。
順風満帆に思えたそんな矢先、連続殺人犯を追っていた父が頭部を砕かれた姿で発見された。
父の無残な遺体に対面した彼女はきっとどす黒い炎で身を焦がしたことだろう。
彼女は直ぐ様父の仇を討とうと奔走したが、反社会組織の妨害や内通者による隠蔽工作で事件は迷宮入りとなった。
だから私が彼女に父を殺した犯人を証拠も添えて教えて差し上げた。
貴方の父は反社会組織にとって極めて都合の悪い人間だったから殺人鬼の獲物に選ばれたと。
彼女は進んで我々の招待に応じてくれたよ。
何せ相手を殺してしまっても構わない状況を提供するのだから。
殺人鬼が女刑事の首に手をかけ締め上げる。
彼女は四肢をバタつかせ必死に逃れようとするが徐々にその動きが緩慢になる。
そしてついに意識を失い大の字になった。
観客席にいる何人かの男女が人目も憚らずズボンやスカートを下ろす。
これから何が起こるか知っているのだ。
会場全体に布を引き裂く音が響き渡る。
あっという間に女刑事は一糸まとわぬ姿になった。
半分覚醒しているのか小さくうめき声を上げている。
その上へ殺人鬼が文字通り馬乗りになる。
腕で華奢な手首を、脚で太ももを押さえつける。
彼女の姿はまるで地面に磔になった蛙のようだった。
そして男はその体勢のままゆっくりと腰を密着させに行く。
温かく柔らかいクレバスに黒光りすると巨大な塔が沈んでゆく。
その過程で彼女が目を覚ます。
最初は何が起こってるか分からない様子で、しかし途中から観覧席の防弾ガラスを揺らすほどの悲鳴を上げ続ける。
無理もない、この世で最も憎んでいる男が愛を育む神聖な場所に出入りしているのだ。
滑稽な姿で親の仇に貫かれながら怨嗟の声を上げる彼女に客の反応は様々だった。
ある者は見下すように失笑し、あるものは感動して涙を流し、あるものは興奮して精や愛液を撒き散らせた。
そんな中、ある変化が起こり客達の興味をそそった。
彼女が顔を紅潮させ声を上ずらせ始めたのだ。
全ての客の口元が歪む。
下卑た笑顔というにはあまりに汚らしく毒々しい、人間に出来る表情の限界を超えていた。
そんな人間とは言い難い者の瞳には、鈍い音を打ち鳴らす肉のカスタネットが映っている。
殴っているかのような勢いで腰が打ち付けられ、やがて彼女は甘く甲高い声を隠すことも出来なくなっていった。
そして男は一際高く体を持ち上げた後、彼女の上へ全体重を落下させ動かなくなった。
いや、よく見るとお互い小刻みに震えている。
今、彼女は男が吐き出したものを吸うように飲み続けているだろう。
皮肉なことに体の相性は抜群だったようだ。
長い間覆いかぶさっていた男がようやく彼女の中へ挿しこんでいたものをずるりと引き抜く。
余程良かったのか、男はよろけながら後退しそのまま後ろへ尻餅をついた。
さらに女が半ば放心したような表情のまま上体を起こす。
と次の瞬間。
ビュッ…ビュッ…
余韻で再び達して腹に力が入ったせいで体内に溜め込んだものが床に撒き散らされる。
地響きすら感じるほどの歓声が沸き起こった。
なんと彼女は仇敵の精を秘所から射精したのだ。
大勢の客が鈴を鳴らす。
これはアンコール。
どの施設においてもまず起こることのない鈴の音の大合唱。
あらゆる生命を軽視する彼らにおいてもなお、彼女たちはこの場で殺すに惜しいと判断したのだ。
速やかに麻酔ガスがステージに充満し戦士たちを眠らせる。
そして私は思案を巡らせた。
さて、第二幕はどんな趣向で臨もうか。
いっそ二人に閉鎖された空間で共同生活を送らせてはどうだろうか。
心と体は同じものだ。
一度でも体が快楽を感じてしまうとどんなに頭で否定しても変化は訪れる。
再び殺し合いを始めるのか、それとも別の関係が生まれるのか客達も大いに興味があるだろう。
観覧席で狂態にふける者達、人の臨界を越えてしまった亡者たちを眺め悦に浸る。
何と美しい姿だろう。
彼らは残酷で陰険で下劣で無恥だ。
まるで宝石のように純度の高い邪悪。
此度も存分に楽しませてもらった。
そう、ここは私が客を愉します遊興施設ではなく、客が私を愉しますのための遊興施設。
私のおもちゃ箱なのだ。