Artist's commentary
戦艦レ級手ニ負エズ(研究番号レ-00133)
――最初からこうしておけばよかったのだ。意思疎通ができるかどうかなど知ったことか。我々を舐めきったあの態度、言葉を理解しているにも関わらずまったくいい加減な受け答え…ほとんどの兵装が大破して抵抗しても勝ち目がないことはわかっているはずなのに。我々を心底馬鹿にしているとしか思えぬ。身の程を思い知らせるにはちょうどいい――
戦艦レ級が研究所内ドック入りしてからの数日、まったく取り付く島もないその態度が原因となり担当研究班の作業は遅々として進まずにいた。意思疎通の不要な身体検査項目だけがかろうじて進んでいたものの、特にその胴体から生えた異様な尾節の構造は医療担当者の知識を持ってしても到底理解できるものではなくただでさえ新種の調査成果を求められるプレッシャーが大きくなっていく環境のなか、レ級のひねくれた(と表現するのが適当な)態度が追い打ちを掛けるようにストレスを倍増させていた。
そんななか、触診調査においてたまたま毛筆が触れたその瞬間がらりと空気が変わった。レ級の悲鳴。それは一瞬の声だったが、その場にいた全員が確かに聞いた。聞いてしまった。誰が言い出すわけでもなく、いつのまにか研究員それぞれの手には毛筆やハケやブラシといった道具が力強く握られ、簡易拘束状態のレ級を無言で取り囲んだ研究員たちは一斉にそのストレスを道具越しにぶつけたのだ。
――レ級が再び意識を取り戻したのは数秒前、失神回数は二桁を数えて久しい。激しい痙攣と雄叫びのような悲鳴を絞り出しながら、その刺激にのたうちまわり踊り狂う。深海棲艦がこれほど敏感な体表感覚を持つという事実は戦艦ル級以外では確認されていなかったはずだが、レ級の感度はそれを遥かに上回る極端な特徴として報告されることになるだろう。
まあ今はそんなことはどうでもいい。今日いっぱいこのまま触診調査を続行する。コノヤロウコノヤロウ。