Artist's commentary
「お兄さん、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
最近お空に好きな人が出来たとお燐から聞かされた。そして彼女の思いをどうか許してほしいと。友人の幸せを願ってのことだろうが、少し過保護すぎる気もする。別に私はそこまでペットを束縛したりはしない。しかし相手が悪人だったら目も当てられない、あの娘は大層傷つくだろう。なので私はその相手を調べることにした。主に考えを読んで相手の人となりを知る方法で。私も人のことは言えないなどと当時は笑ったものだ。 お空に相手を地霊殿に連れて来るようにいって初めて見たその相手は普通の人間だった。お空とお燐に連れられて少し緊張している彼は私の意地の悪い質問に人のよさそうな笑顔を見せて真面目に答えてくれた。そして彼の中身も素朴で悪意のないものだった。正直人間の思考を読むのは嫌だったのだが、ペットのためなので我慢してもちろん悪い結果も覚悟していたのだが杞憂だった。彼に興味を持った私は戯れに彼の思考を読んだ。彼はいるのか分からない聖人のようなもので、何一つ穢れがない。だからこそ彼は幻想郷にいるのだろうか。彼の思考は私を不快にさせない、近くにいても苦痛に感じない。気がつくと私は彼の思考の虜になっていた。彼は失った幼い妹の影をお空に見てるようだと知ったとき、私の口元に笑みが浮かんだ。私は喜んでいた。お空の思いが叶うことが難しいと知って。そしてある考えにいたった。なぜ彼は私と先に出会わなかったのか、彼こそ私のそばに入れる唯一の相手ではないのか。彼の思考には醜いものはない、私の力で私の心を苦しめない唯一の相手ではないのか。なぜそんな彼が私のペットたちに囲まれて嬉しそうにしているのか。あそこにいるのは私ではないのか。お空はともかくお燐までも彼に心を開いている。なんなのだろうかこの感情は。私は私の内側に溜まっていく真っ黒なドロドロしたものを感じながら静かに目を閉じた第三の目を開いたまま。楽しげに笑う彼らを見たくなかったから…。 今日もお空は彼と外に遊びに行くらしい。そして私は彼の思考を読むためにこっそりあとをつける。出かけ際、妹が目を細めながらおかしなことを言ってきた。「お姉ちゃん、これ以上お空の相手に深入りしないほうがいい、誰のためにもならないから。」意味が分からないので無視した。お空の恋は叶わない、しかし私が彼と一緒になれば、家族になれる、そうすれば皆幸せだ。そして私は薄く笑いながら、地霊殿を後にした。